各がんの基礎知識膵がん
膵臓がんの基礎知識
膵臓に発生した悪性腫瘍で、膵頭部がんが全体の約60%を占める。初期症状に乏しく、進行がんとして見つかる場合が多い。手術が第一選択となるが手術可能な症例は少ない。危険因子である膵炎を防ぐことが予防につながる。
膵臓の構造
膵臓は胃の裏側にある長さ15~20cm、幅2~3cmの細長い臓器です。前述したように、大きく「膵頭部」「膵体部」「膵尾部」の3つの部位に分けられます(図1)。
図1
膵体部は十二指腸、膵尾部は脾臓にそれぞれ面しています。また、細い膵管とよばれる管が膵臓全体に貫くように走っています。
膵臓は食べ物の消化を助ける膵液を分泌する外分泌機能と、インスリンなどの血糖値を調節するホルモンを分泌する内分泌機能の2つの役割をもっています。
そのため膵臓機能が低下すると、食べ物を消化できなくなり消化不良が起こります。また、インスリンの分泌不足が起こると、血糖値のコントロールが障害され糖尿病の原因となります。
膵臓がんとは
膵臓がんは膵臓に発生した悪性腫瘍です。膵臓の膵管という部分の上皮から発生するものを「膵管がん」といいます。これが膵臓から発生する悪性病変の大部分を占めており、一般的に膵臓がんというとこの膵管がんをさします。
膵臓は場所によって「膵頭部」「膵体部」「膵尾部」に分けられます。このうち膵頭部にできる膵頭部がんが膵臓がん全体の約60%を占めます。
膵臓は体の深い位置にあり、他の臓器や血管に囲まれています。そのため、がんが発生しても発見されにくいだけでなく、早い段階で周辺の臓器や血管に拡がりやすいという特徴があります。
腫瘍の大きさに関わらず重要な血管などへの拡がりが認められると、手術での治療が不可能な場合があります。また、再発率も高く治療後に5年間生きられる確率が約20~40%と低いがんです。
近年の膵臓がんによる年間の死亡者数は、3万5千人に及ぶといわれており年々増加しています。臓器別にみた悪性新生物の死亡者数では男性では5位、女性では3位となっています。
発症年齢のピークとしては60歳代で、やや男性に多いです。発症者数と死亡者数の値が近似していることからも、治療の経過が不良である疾患であるとわかります。
膵臓がんの原因
膵臓がんを発症する直接の原因は不明ですが、家族に膵がんを発症した人がいるかどうか(家族歴)や糖尿病、膵炎や大量飲酒・喫煙、肥満といったことが危険因子として考えられています。
家族歴に関しては親や兄弟、こどもといった近親者に膵臓がんの人がいる場合発症する確率はそうでない人に比べて32倍になる報告がされています。
また、膵臓がん患者の約半数以上に糖尿病が認められます。そのため、糖尿病の治療開始前には膵臓がんの検査も同時に受けることが推奨されています。
膵臓がんは慢性膵炎の死亡原因としては1位です。そのため、膵炎の原因となる大量の飲酒や喫煙、高カロリーの食事などは膵臓がんの危険因子となっています。
膵臓がんの症状
膵臓がんは一般的に初期段階では無症状のことが多いがんです。症状が現れた際には、すでに進行がんとして見つかる場合がほとんどです。がんが拡がると胆道の閉塞やホルモンの分泌が低下することで症状が現れます。
初期段階としては腹痛や背中の痛み、肌が黄色くなる黄疸などがあり、次いで下痢などの消化不良症状や体重減少などがみられます。
膵臓がんのなかでも最も多い膵頭部がんでは、腹痛や黄疸が初発症状として多くみられ、膵尾部がんでは腹痛が多いです。また、新たに糖尿病を発症した場合やすでに糖尿病で血糖値のコントロールが急に不良になった場合などは、膵臓がんが疑われます。
いずれの症状も膵臓がん特有のものではないため、症状が現れた場合でも膵臓がんと気付かないことがほとんどです。
膵臓がんの検査・診断
膵臓がんは初期症状に乏しく、特徴的な症状もないため早期発見や診断の確定が難しいがんです。そのため、危険因子をもつ人に膵臓がんの初期症状が現れている場合は積極的に検査することが勧められています。
膵臓がんの診断は超音波検査、CTやMRIといった画像診断が中心になりますが、可能な限り膵臓の組織や細胞から病理診断を実施するのが望ましいです。
1血液検査
血液のなかに含まれる膵臓の酵素である血清アミラーゼ、エラスターゼ1などを調べます。また、血液検査では「腫瘍マーカー」というがんが作り出す特殊な物質を調べます。
CA19-9、SPan-1、DUPAN-2、CEA、CA50といった腫瘍マーカーを検査し、がんの発生の有無や場所、進行度を調べることが可能です。
これらの値が高い場合膵臓がんを疑いますが、膵臓がん以外の要素でも高くなる可能性もあり、腫瘍マーカーが高いからといって膵臓がんと確定するわけではありません。
2超音波検査
腹部に超音波を当てる検査で、膵臓がんの有無を調べる際には最初に実施します。この検査は患者さんへの負担も少ないのが特徴です。
3CT・MRI検査
超音波検査や血液検査よって膵臓がんが疑われた場合に実施されます。CTはX線、MRIは磁気を利用して検査します。がんの位置、大きさ、範囲、個数などを調べるのに効果的な検査です。膵臓がんの場合は造影剤を使用して検査を実施する場合がほとんどです。
膵臓がんは食道や胃、大腸と違い直接内視鏡を入れて腫瘍を確認することができません。そのため、通常の検査に加えてMR胆管膵管撮影(MRCP)を実施することがあります。
MRCPはMRI検査によって得られたデータをもとに、膵臓や胆管の画像を作成します。造影剤を使用しない点や、口からカメラを入れない点などから負担が少なく内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)の代わりに実施される場合もあります。
4超音波内視鏡検査(EUS)
口から入れる内視鏡の先端に、超音波検査が可能な装置がついたものを使用します。この際、可能であれば内視鏡の先端から針を使用して膵臓の細胞を採取する超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)によって病理診断を実施する場合があります。
5内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
CT検査やMRI検査、EUSなどによって膵臓がんの診断がつかない場合に実施されます。口から入れた内視鏡から造影剤を膵臓に流し検査します。
EUSと同様に、この検査の際に膵臓の細胞や組織を一部採取し病理診断を実施することがあります。また、造影剤を使用するため急性膵炎などの合併症のリスクがあります。
これらの検査に加え、がんの転移を調べるPET検査の実施や腹腔鏡を利用して直接膵臓を検査する場合があります。
膵臓がんの治療法
膵臓がんの治療は手術による外科的治療、抗がん剤を使用した化学療法と放射線療法の3つがあります。手術による外科的切除は、膵がんの根治治療として最も効果的です。
しかし、膵臓がんは早期発見が難しいため、診察時には手術不可能となっている場合も少なくありません。診察時に手術可能な例は約10~20%とされています。
切除が可能な例は手術が第一選択となりますが、手術不可能な例では化学療法と放射線療法が実施されます。また、切除可能例においても手術の効果を向上させるために化学療法や放射線療法を併用する場合もあります。
1外科的治療
膵臓がんの外科的治療は膵臓のどこに腫瘍が発生したかによって変わってきます。
膵頭部とその周囲の臓器(十二指腸や胃、胆のう)に拡がっている場合は、胃の2/3と十二指腸、胆のうを切除する膵頭十二指腸切除術(PD)が標準的な術式になります。
近年では、胃の一部と幽門輪(胃と腸の境界部分)を温存する幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)や、胃の大部分を温存する亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)が実施されることが多くなっています(図2)。どの手術の場合も、切除後は消化管を再建する必要があります。
図2
腫瘍が膵尾部にある場合は、膵尾部切除術が選択されます(図3)。膵尾部に隣接する脾臓も切除し摘出するのが一般的です。膵頭部の手術と違うのは、消化管の切除がないため再建する必要がありません。
図3
がんが膵臓全体に及んでいる場合は膵全摘術が検討されます。膵臓に加え、胃、胆のう、総胆管、十二指腸、脾臓を切除します。この術式では膵臓がなくなり機能が失われてしまうため、生涯にわたってインスリンと膵臓の酵素の補充が必要となります。
2化学療法
手術の適応とならなかった場合、抗がん剤を使用する化学療法が選択されます。化学療法はがん細胞の増殖を抑制し、がんの進行や転移を防ぐ効果が期待できます。
一方で抗がん剤には副作用があります。使用する薬剤によって現れる副作用は変わりますが、代表的なものとしては吐き気、嘔吐、下痢、口内炎、脱毛などがあります。また、個人によってどの程度症状が出るかも変化します。
3放射線療法
放射線をがんに照射し、進行を止める治療方法です。がんが膵臓から離れた臓器へ転移しておらず、手術適応とならなかった例に対して実施が検討されます。
放射線療法は実施中、吐き気や嘔吐、皮膚の炎症や下痢といった症状が現れる場合があります。症状の程度には個人差があります。
また、化学療法と放射線療法併用した治療法を化学放射線療法と呼び、全身状態が良い患者さんには標準的に実施される治療となっています。
膵臓がんの予防
膵臓がんの危険因子である膵炎を防ぐことが予防につながります。そのため、膵炎の原因となる、過度の飲酒や偏った食生活、刺激物の過剰な摂取は控え生活習慣を見直しましょう。
また、膵炎や糖尿病を指摘された人や、家族に膵臓がんの患者がいる人などは定期的に膵臓がんの検査を受け、膵臓がんを早期発見・治療できるよう心がけましょう。