医療コラム
入院での化学療法と外来通院での化学療法
大阪では導入時以外に化学療法を入院で投与することはなかった。いつも、病床は満床に近く、化学療法は外来通院でするものと決まっていた。外来化学療法加算という病院にとっての重要な収入源も用意されていたので、化学療法のために短期入院を反復するという考え方自体が存在しなかった。だから、東京や大阪などの都会では、大腸がんの患者さんにFOLFOXではなく、SOXやCAPEOXを選択する医師が多いのではと推察する。患者さんがご自分の状況に応じて治療を選んでいるのではなく、主治医が医療資源から鑑みて患者さんに最適解を押し付けているようにも見える。
2020年春以降、山口大学の大腸がんの化学療法は大きく変化した。それは、治療前に遺伝子変異を漏らさず確認すること(RAS変異、BRAF変異、Her2遺伝子、ミスマッチ修復遺伝子)、遺伝子変異に応じて血管新生阻害薬かEGFR阻害薬をFOLFOX療法に追加すること、定期的な画像診断にてRECIST判定を実施し、不応なら二次治療(FOLFIRI+Rmab療法)に変更すること、などを核にした変更である。ほぼ全員の患者さんにCVポートが留置され、短期入院を希望する患者さんは、隔週に2泊3日または3泊4日の入院を反復するようになった。月曜または木曜の私の再診日には、毎日10名から15名までの患者さんが化学療法のために入院する。それ以外に検査や手術のために予定入院する患者さん、体調不良で緊急入院する患者さんもいらっしゃるから、忙しい病棟の看護師さんたちには感謝しかない。
患者さんの希望を柔軟に受け入れられる山口大学の体制には自負の念があるが、患者さんの満足度や生命予後の改善などの評価については、もう少し時間が必要である。しかし、もしアウトカムの改善が認められないなら、以前の方法に戻すことは明言しなければならない。医療の世界で自己満足は、厳に慎まなければならないからである。