医療コラム
「外科と緩和ケア」
消化器・腫瘍外科は、名前の通りがんに対する治療が多い診療科です。そのため、患者さんにがんによる痛みが出てきたり、身体のだるさや食欲低下、気持ちの落ち込みなどの症状が出てきたりした場合に、緩和ケアについてお話をさせていただく機会があります。
緩和ケアと言うと、
「最後は緩和ケア(ホスピス、対症療法などと言われることも)しかないのか…」
「どうせ対症療法に過ぎない。治療ではないだろう(わたしは治療を受けたいのに)」
といった反応をされる方が多くいらっしゃいます。
確かに、緩和ケアはがんそのものに対して何か治療を行うものではありません。
ですが、がんによるさまざまな症状を和らげることで、がんに対する治療は行いやすくなります。
例えば、膵臓がんでは手術の前に抗がん剤治療を行って、ある程度がんを抑えてから手術を行うことが一般的になっています。
ところが、膵臓がんは診断された時点で既に痛みや食欲低下などの症状が出ていて、そのために体調が悪化している場合がしばしばあります。体調が悪いと、抗がん剤治療が十分に行えなかったり、手術を乗り切るための体力が落ちたりしてしまうことがあります。そんなときに、痛み止めや吐き気止めを使って痛みなどの症状を和らげることで、体調がよくなり、手術前の抗がん剤治療から手術までがスムーズに行える、ということはよく経験します。
緩和ケアは、このように手術の前に行なわれることもあります。
「もう治療ができないから、緩和ケア」というわけではなく、がんに対する治療をしっかり行うためにも緩和ケアの技術が大事だと考えています。
(もちろん、治すことが困難ながんや、がん以外の疾患を抱えている患者さんにおいても緩和ケアは重要だと思いますが、それは一般的によく言われていますので、ここでは割愛します)
卒後12年目、消化器外科専門医