診療内容上部消化管(食道・胃)
診療内容 – 食道
高侵襲の食道がんや食道良性疾患に対して内視鏡下手術・ロボット支援下手術を導入し、低侵襲で根治性の高い治療を目指しています。手術、周術期管理、化学療法などにおいて様々な工夫を行い、食道疾患を治療しています。
食道について
食道は喉の奥から胃の入り口まで、約25㎝の長さで、胸の背中側を通っています。手術が必要となる食道の病気の主なものは、良性疾患であれば食道アカラシア、逆流性食道炎、食道粘膜下腫瘍などで、悪性疾患では食道がんが挙げられます。
良性疾患(アカラシア、逆流性食道炎、食道粘膜下腫瘍など)では、まずは内科的に治療しますが、内科的治療が困難な場合には外科手術となります。以前はお腹を真ん中で大きく切って(正中切開)手術をしていましたが、当科では腹腔鏡手術を第一選択にしており約1cmの創が数箇所腹部に残るだけでの手術が可能です。
当科で治療する食道疾患で一番多いのは、食道悪性腫瘍(食道がん)です。
食道がんの治療は(1)手術(内視鏡的粘膜下層剥離術を含む)(2)化学療法(抗がん剤)(3)放射線療法があります。
当科では腫瘍の状態、患者さんの全身状態、患者さんの希望などを総合的に判断して、最適な治療方法を薦めています。
食道がんの治療方針
食道がん診療ガイドライン2017年版、日本癌治療学会がん診療ガイドライン
cStage0, I食道がん治療のアルゴリズム
cStageII, III食道がん治療のアルゴリズム
cStageIV食道がん治療のアルゴリズム
食道がんの手術
食道は重要な臓器に囲まれているため、食道の手術には専門的な解剖学的知識が必要です。当科では食道がん治療経験が豊富な食道外科専門医あるいは消化器外科専門医が担当・指導を行っています。
1胸腔鏡下⾷道切除術
従来、食道がんの手術は、右第4肋間を20cm程度開胸して行っていましたが、胸腔鏡手術は1cmの創を4箇所切開して行う低侵襲手術で、美容性に優れ、術後の疼痛が少ない手術です。当科では食道がんに対する胸腔手術を2008年から導入し、内視鏡技術認定取得医(食道がん)を中心に80~90%の症例に胸腔鏡下手術を行っています。大画面の4K画像の機器を使用するので細かいところまで観察が可能です。
また、2020年からはロボット支援機器を用いた最新の胸腔鏡手術を導入しています。
胸腔鏡下⾷道切除術
胸部の⼿術創
2腹腔鏡補助下の腹部操作
腹部の⼿術創
食道がんの手術では胸部だけでなく腹部や頸部の操作が必要ですが、腹部操作も以前から腹腔鏡補助下に小さな傷で手術を行っています。約6cmの小さな創で腹部操作を行うため、術後の腹部創の痛みは軽くなっています。
3ロボット支援下食道切除術
ロボット支援下手術は、従来の胸腔鏡手術では手動で直接動かしていた手術機器やカメラをロボットアームにドッキングして医師が操作して手術を行います。従来法に比べ、多関節の鉗子で広い可動域があり、3D映像でより拡大した画面を見ながら手術を行うため、より繊細な操作が可能で、安全性や根治性を高めることを期待されています。
4縦隔鏡下食道切除術
胸腔内操作で開胸を行わず縦隔鏡というカメラスコープを頸部と腹部の創から挿入し、周囲組織から食道を剥離し、リンパ節を郭清する方法です。開胸が困難な患者さんや比較的早期の患者さんに用い、開胸を伴わないためより低侵襲な手術ですが、ある程度適応が限られます。
5年度別食道手術症例数
下のグラフは、これまでの食道手術の年次推移を示しています。
良性疾患も含めて鏡視下手術割合が多数を占めるようになってきました。
6手術成績
当科の食道がんのステージ別の治療成績を示します。
周術期管理
1栄養管理
食道がんの患者さんは通過障害のため十分な食事が取れずに、術前に栄養状態が不良となっていることが多く、術後の様々な合併症の原因となることが知られています。当科では術前に免疫増強作用のある栄養剤を飲んでいただくことでこの栄養状態を改善して免疫能を高めて手術に望むようにし、感染症を代表とする合併症の発症を低くしようと努力しています。
2周術期リハビリテーション
上記のように当科では主に胸腔鏡・腹腔鏡視下での食道がん手術を行っていますが、低侵襲な鏡視下手術においても術後肺炎などの合併症を認めることがあります。
このような術後呼吸器合併症や廃用症候群の予防、入院期間の短縮、早期社会復帰を目的に、手術前から周術期、退院に至るまで一貫した呼吸器・運動器リハビリテーションを行っています。また、食道がんの術後には反回神経麻痺などが原因で嚥下障害が生じることもあるので、嚥下リハビリテーションも術前から行っています。
3チーム医療による食道がん周術期管理
食道がん手術は侵襲の大きな手術で重篤な術後合併症も多いため、より安全に手術を遂行するために多職種によるチーム医療による周術期管理を行っています。看護師、管理栄養士、リハビリテーションスタッフ、ICUスタッフなどが参加し包括的な周術期のケアを行っています。
4化学療法
標準的にはCDDP(シスプラチン)と5-FUという抗がん剤を用いていますが、ドセタキセルも加えた3剤併用療法を行う症例も増えています。cStage Ⅱ・Ⅲの食道がんでは術前化学療法を行うことが標準治療となっています。また、免疫チェックポイント阻害剤もガイドラインに追加され2次治療以降に投与を行っています。当科では腫瘍センターと連携してカンファレンスで検討し化学療法の方針を決めています。
5放射線療法
食道がんに対する放射線治療では化学療法と同時に併用する化学放射線療法が推奨されています。2者の併用することで相乗効果が期待でき治療効果が高まります。がんが高度に進行している場合や、合併症などで耐術能がないため手術ができない場合に行う治療のひとつです。また手術適応であっても手術を希望されない場合にも選択されることもあります。
診療内容 – 胃
胃がんの治療は主に手術、内視鏡治療(胃カメラによる治療)、化学療法に大別されますが、当科では手術および化学療法を中心に診療しています。本ページでは当科における胃がんの手術療法の概要と成績ついてご紹介いたします。化学療法については化学療法チームと連携しておこなっており、詳細は化学療法チームのページをご参照ください。
胃がんの手術
手術の対象となる胃がん症例
手術の対象となる胃がんは内視鏡治療の適応にならないステージ1~3の胃がんになります。ステージ4の胃がんは通常、化学療法の適応となりますが、ステージ4胃がんのなかにも化学療法の後に切除の対象となる場合もあります。(ステージ4胃がんに対する手術欄参照)
通常の胃がんに対する胃切除
胃がん手術の術式
胃がんの手術の術式は主に、①胃の切除範囲、②アプローチ で決まります。
1胃の切除範囲
- 幽門側胃切除:胃の出口(肛門)側2/3を切除する
- 噴門側胃切除:胃の入口(口側)側1/3を切除する
- 胃全摘:胃全体を切除する
があり、主に腫瘍の位置と大きさで決まります。
胃がん手術後は食事摂取量の低下や体重減少などの胃切除後障害がありますが、一般的に幽門側胃切除や噴門側胃切除といった胃の一部分を温存する術式は胃全摘に比べて、胃切除後障害の程度が軽いとされています。胃の上部に位置する胃がんに対しては胃全摘や噴門側胃切除のいずれかの術式が選択されますが、噴門側胃切除は①手術が煩雑、②術後の食物通過が良くない、③術後の逆流性食道炎が多い、などの問題点もあり、最近まで積極的に施行されていませんでした。しかし術後機能性に優れた再建法が開発され、近年、全国的にも見直され始めており、最新の胃がん治療ガイドラインにも胃上部の早期胃がんに対して噴門側胃切除が推奨されています。当科でも胃を極力温存することを目的に山口県ではまだ少数しか行われていない腹腔鏡下噴門側胃切除を積極的に行っており、比較的良好な術後成績を得ています。
また当科では病理診断医が常駐している強みを生かし、術中迅速病理診断(手術中に切除断端におけるがん細胞の有無を顕微鏡検査で調べる方法)を活用して、胃の切除範囲必要最低限にとどめることで幽門側胃切除や噴門側胃切除の割合を増やし、胃全摘を減らす努力をしており、2020年には胃全摘率が10%程度まで減少してきています。
2アプローチ
- 開腹手術
- 腹腔鏡手術
- ロボット手術
がありますが、おもに施設の方針や技術レベルで決定されています。
胃がんの手術は、全国的には大半が開腹手術もしくは腹腔鏡手術で施行されており、近年では全国の胃がん手術の約半数弱が腹腔鏡手術で施行されています。一方、山口県内の施設では全国に比べてまだ胃がん手術における腹腔鏡手術の導入が遅れているが現状です。
腹腔鏡手術は開腹手術と比較して、①傷が小さいため術後の痛みが少なく、体に負担が少ない、②合併症が少なく、入院期間が短い、などの利点があります。特に近年では体内で吻合(胃や腸をつなぐこと)を行い、臍の周囲の切開から切除胃を摘出することにより3.5㎝以下の創部だけでほとんどの胃切除術が可能となりました。
また腹腔鏡手術は腹腔鏡で切除対象まで近寄って拡大した視野で、細い血管などを確認しながら繊細な手術操作が可能であるため、開腹手術に比べて、手術中の出血量が少ないのが特徴です。一方でがんの根治性(治りやすさ)は開腹手術と同等であるという結果が臨床試験から明らかになっています。当科の過去の胃がん腹腔鏡手術の術後生存の成績も開腹手術と比較して同等以上となっています。
当科では2003年から腹腔鏡下胃切除を開始後、ノウハウの蓄積、技術向上とともに腹腔鏡手術率を上げ、胃がん手術の95%以上を腹腔鏡手術で行っています。現在では幽門側胃切除、噴門側胃切除、胃全摘すべての術式で腹腔鏡手術を第一選択としており、また進行がんに対しても基本的には腹腔鏡手術を選択しています。腹腔鏡手術には高度な技術が必要とされますが、当グループでは県内では数少ない内視鏡外科技術認定医が複数名在籍しており、安全で質の高い腹腔鏡手術を提供できるように日々診療に取り組んでおります。
また近年、胃切除においてもロボット支援下胃切除が導入され始めていますが、ロボット胃切除を保険診療で行うためには、10例以上の施設経験とロボット手術の認定資格が必要となります。当院は上記の基準をクリアーしており、県内で唯一のロボット支援下胃切除の保険診療認定施設となっています(2021.9月現在)。
特殊な胃がんに対する胃切除
食道胃接合部がんに対する手術
食道胃接合部がんは食道と胃のつなぎ目に発生するがんで近年増加傾向にあります。食道胃接合部がんは胸部から腹部にまたがっていることも多く、胸部や腹部からだけでは切除困難な場合もあり、手術が難しいがんとされています。当科では食道に3㎝程度までの浸潤にとどまる症例に対しては腹腔鏡のみで噴門側胃切除術を施行し、それ以上の浸潤を認める症例に対しては腹腔鏡および胸腔鏡を併用して下部食道切除+上部胃切除を行っています。当グループは食道がんおよび胃がんを専門とする医師が、胸部、腹部からの操作を胸腔鏡と腹腔鏡で行っており、食道胃接合部がんに対しても低侵襲な治療を行っています。
ステージ4胃がんに対する手術
ステージ4胃がんに対しては通常、化学療法(抗がん剤治療)の適応で、手術療法の適応となる症例は少ないとされています。しかし、ステージ4胃がんのなかにも、大動脈周囲リンパ節転移や少数の肝転移症例などは、手術による根治を目指せるというデータも示されており、切除によって生命予後の改善が見込める症例に関しては当科では積極的に手術を行っています。
また、近年の化学療法の成績向上に伴い、化学療法が奏効した症例に対して根治を目指して手術を行うコンバージョン手術が注目され始めています。当科では化学療法グループと連携しつつ、遠隔転移症例に対しても化学療法が奏効し、根治切除が期待できる場合にはコンバージョン手術に取り組んでいます。
また大動脈周囲リンパ節転移を伴う高度進行症例や肝転移症例に対しても、積極的に腹腔鏡手術を行い、治療の侵襲を軽減するように努めています。
他院で切除不能と診断された場合でも切除可能となる症例もありますので、希望される患者様は外来紹介もしくはセカンドオピニオンを利用して当科受診をお願いします。
胃がん手術後の経過
胃切除後の術後経過は、1日目に飲水や内服を再開、3-4日目から食事を開始します。4日目に腹水を体外に誘導するドレーンというチューブを抜去します。その後は食事の形態を徐々に上げていき、全粥も摂取できれば約2週間で退院可能となりますが、合併症の発症により延長する可能性があります。
当科における胃がん手術の手術件数と成績
手術症例数年次推移(胃)
当科における胃切除後生存率
参考:全国成績(がん登録5年生存率)
ステージ1 | 82.3% |
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ステージ2 | 59.9% |
ステージ3 | 36.8% |
ステージ4 | 5.6% |
がんの統計2021