診療内容肝臓・胆道・膵臓
診療内容 – 肝臓
肝
肝細胞がんは日本のがんによる死亡率のうち男性では第4位、女性では第6位です(2013年)。肝細胞がんは8割以上がB型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)感染が原因ですが、最近では飲酒や肥満、糖尿病などの生活習慣に関連する代謝関連肝がんが増加してきています。
肝細胞がんの治療法には内科的治療と外科的治療法があります。
内科的治療法には腫瘍を焼灼・死滅させるラジオ波(マイクロ波)焼灼術、エタノール局注療法、がんを栄養する血管に抗がん剤や塞栓物質を入れる肝動脈塞栓療法、リザーバー留置による抗がん剤の肝動注化学療法、全身薬物療法などがあります。
外科的治療法とは肝臓を切除することにより肝細胞がんを治療することです。経皮的に穿刺の困難な場合は開腹下、腹腔鏡下、または胸腔鏡下にラジオ波などによる焼灼術を行うこともあります。
治療の選択にあたっては、当院消化器内科の医師と毎週カンファレンスを行い、最善の治療法を検討しています。内科的治療の詳細は、当院消化器内科のホームページをご参照ください。最終的には患者さん御本人に診断と治療法をお話し、治療法を選択していただいています。
肝がんの手術
手術の対象となる肝がん症例
肝細胞がんの大きさ・個数・脈管侵襲(がんが肝内の主な動脈、門脈、胆管、静脈などへ浸潤していること)、リンパ節転移の有無、遠隔転移(肝臓以外の臓器へ転移すること)の有無から、4段階の進行度(ステージ)に分けています。ステージ1~3はリンパ節転移や遠隔転移がなく、大きさ・個数・脈管侵襲のみで分類されます。ステージ1は1か所、2cm以下、かつ脈管浸潤がない、小さながんです。ステージ2、3となるにつれ大きさ、個数、脈管侵襲が増えていきます。ステージ4は大きさ・個数・脈管侵襲がいずれも高度なもの(複数箇所、大きさ2cm以上、かつ脈管浸潤あり)のほか、リンパ節転移や遠隔転移が存在するものも含まれます。手術適応は基本的に肝機能が良好で3個以内の腫瘍であることが多く、その多くはステージ1~3の場合ですが、ステージ4でも条件によっては切除可能な場合もあります。また、近年では新規薬物療法の出現により、今まで切除困難とされていた進行がんの方も、薬物療法と組み合わせることで切除可能な場合もあります。
一方で、肝臓の再生能力などのポテンシャル(肝予備能といいます)が良くないと手術は不可能です。 肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変などによる肝機能障害のある肝臓にできることが多いため、障害のある肝臓にメスを入れることになる手術において、残る肝臓で維持できるかどうかは非常に重要です。肝予備能が良い場合は最大で肝臓の約2/3まで切除できますが、悪い場合は小範囲の部分切除しかできません。
通常の肝がんに対する肝切除
肝がん手術の術式
肝臓は解剖学的に4つの区域(さらに細かく分類すると8つの亜区域)に分かれています。区域に沿って切除するかしないかで肝切除術は2つに分類されます。
1非系統的切除(図1)
腫瘍から最小限の距離をおいて、区域に関係なく部分的に切除します。切除範囲が少ないことが多いです。小さな腫瘍や肝臓の表面に近い腫瘍に行われることが多いです。
2系統的切除(図2)
肝臓の解剖学的な区域に沿って切除を行います。肝前区域切除、肝右葉切除など、切除する区域によって名前がついています。切除区域に流入する血管を遮断し、区域の境界に沿って肝切除を行います。比較的大型の腫瘍に対して行われることが多い術式です。
肝切除術の利点は、他の内科的治療に比べると局所再発が少ないということです。しかし、欠点として、体への侵襲は大きくなり、特に肝予備能が低い患者さんには負担が大きくなることが考えられます。また、手術となると、やはり合併症が気になることと思います。術中出血は最も心配になる点の一つと思いますが、現在、手術手技と医療器具の発達よって術中出血がかなり抑えられようになっています。一番心配なのは、肝不全に陥ることです。これは、肝切除の後に肝機能がオーバーヒートしてしまう重篤な合併症ですが、厳密に手術適応を決めている現在でも0にはできません。もし術後肝不全なるリスクが高いと判断された場合には、門脈塞栓術という血管を詰める手技を術前に行うこともあります。
3アプローチ
- 開腹手術
- 腹腔鏡手術
があります(図3)が、おもに施設の方針や技術レベルで決定されています。
肝がんの手術は、全国的には開腹手術が主流でしたが、近年では腹腔鏡手術が急速に普及してきています。
腹腔鏡手術は開腹手術と比較して、①傷が小さいため術後の痛みが少なく、体に負担が少ない、②合併症が少なく、入院期間が短い、などの利点があります。また腹腔鏡手術は腹腔鏡で切除対象まで近寄って拡大した視野で、細い血管などを確認しながら繊細な手術操作(図4)が可能であるため、開腹手術に比べて、手術中の出血量が少ないのが特徴です。
当科では2010年から腹腔鏡下肝切除を開始後、ノウハウの蓄積、技術向上とともに腹腔鏡手術率を上げ、肝がん手術の70%以上を腹腔鏡手術で行っています。現在では血管合併切除や胆道再建といった複雑な術式を除く通常の肝切除で腹腔鏡手術を第一選択としております。また、肝がんは再発率が高く繰り返し治療が必要となる場合も多いですが、繰り返し肝切除に対しても積極的に腹腔鏡手術を行っております。腹腔鏡手術には高度な技術が必要とされますが、当グループでは県内では数少ない内視鏡外科技術認定医が在籍しており、安全で質の高い腹腔鏡手術を提供できるように日々診療に取り組んでおります。
特殊な肝がんに対する手術
門脈内腫瘍栓を伴う肝がんに対する手術
肝がんのうち進行したものでは、時に門脈という血管の中に腫瘍が入り込んでいること(門脈内腫瘍栓といいます)があります。このような場合には、術後早期に再発する場合が多く、手術単独では治療困難な場合が多いです。このような場合は、手術の前後で内科的治療を行いながらがんをコントロールしつつ、肝切除を行います。また、手術は肝切除に加えて腫瘍栓摘出といった血管を切開し腫瘍を抜き取る手技が必要となりますが、このような大きな手術に対して経験が豊富であるのも当科の強みです。
他院で切除不能と診断された場合でも切除可能となる症例もありますので、希望される患者様は外来紹介もしくはセカンドオピニオンを利用して当科受診をお願いします。
肝がん手術後の経過
門脈内腫瘍栓を伴う肝がんに対する手術
肝切除後の術後経過は、1日目に飲水や内服を再開、2-3日目から食事を開始します。4日目に腹水を体外に誘導するドレーンというチューブを抜去します。その後は約10日~2週間で退院可能となりますが、合併症の発症により延長する可能性があります。
当科における肝がん手術の手術件数と成績
手術症例数年次推移(肝)
当科における肝がん術後生存率
診療内容 – 胆道
胆
胆道がんは胆汁の通り道である胆管上皮が悪性化したものです。肝細胞がんのようにハイリスクグループのスクリーニングによる早期発見が困難です。胆道がんにおいてはその発生部位に応じて肝内胆管がん、肝外胆管がん(遠位、肝門部)、乳頭部がん、胆嚢がんに区分されます。肝切除を必要とする胆道がんは肝内胆管がん、肝門部胆管がん、胆嚢がん、膵切除を必要とする胆道がんは遠位胆管がん、乳頭部がんとなります(図1)。
胆道がんにおける最も有効な治療法は外科切除です。したがって胆道がんと診断された患者さんに対して外科切除の可能性をまず第一に検討します。
胆道がんの治療は主に手術、化学療法に大別されますが、本ページでは当科における胆道がんの手術療法の概要と成績ついてご紹介いたします。化学療法については化学療法チームと連携しておこなっており、詳細は化学療法チームのページをご参照ください。
図1
胆道がんの手術
胆嚢がん疑い例に対する腹腔鏡手術(図2)
様々な画像検査の結果から、胆嚢にがんを疑う(あるいは否定できない)病変がみつかっている場合に行います。残念ながら胆嚢がんの術前画像診断の精度は決して高くなく術前の病理診断も困難なため、この病変が胆嚢がんであるかどうか、また胆嚢がんであった場合には早期がんか進行がんかどうかも現時点では判断が難しいです。したがって、胆嚢がんの疑いがあると画像診断でなされた場合には、診断的な目的も兼ねて胆嚢摘出術を行う必要があります。切除した胆嚢の最終診断により、良性あるいは早期がんであれば、本手術のみで治療は完結しますが、進行がんの場合には追加の手術や抗がん剤治療が必要となります。胆嚢の漿膜を残さずすべて取る(胆嚢全層切除)か、胆嚢の周りの肝臓も一緒に取る(胆嚢床切除)を行います。当科ではこの手術を腹腔鏡で行っています。
図2
手術の対象となる胆道がん症例
手術の対象となる胆道がんは完全切除可能なステージ1~3の胃がんになります。ステージ4の胆道がんは通常、化学療法の適応となりますが、ステージ4胆道がんのなかにも化学療法の後に切除の対象となる場合もあります。当科では、他院で切除不能とされるような進行胆道がんに対しても、血管再建手技を駆使した拡大切除を行う事で治療成績向上を目指しています。一方、胆道がんのうち胆嚢がんは画像診断が難しいことから、診断目的のための腹腔鏡手術を行うことも多いです。以下、手術について説明します。
胆嚢がんの場合
胆嚢床切除術、肝中央下切除術±胆管切除術(図3)
主にリンパ節郭清を必要とする胆嚢がんに対して行われます。胆管は切除しない場合もありますが、肝管を切離する場合には、胆管と腸を吻合(胆道再建といいます)が必要となります。進行するとより大きな肝切除と膵頭十二指腸切除が必要になります。
図3
胆管がん、進行胆嚢がんの場合
肝葉切除・3区域切除術+胆管切除術(図4)、膵頭十二指腸切除術(図5)
胆管がんはできる場所によって手術はさまざまです。
肝門部胆管や肝臓に近い上のほうの胆管にがんがある場合(肝門部胆管がん)、あるいは肝臓に浸潤している進行胆嚢がんの場合は下図のように網掛けの部分を切除します。残った肝内の胆管と腸を吻合(胆道再建)します。
図4
一方で、胆管の下のほうにがんがある場合、十二指腸乳頭部がんの場合、十二指腸などへの浸潤を伴う進行胆嚢がんの場合などは、下図のように網掛けの部分を切除します(膵頭十二指腸切除術)。中下部胆管とともに胆嚢、膵頭部(膵臓の右側部分)と十二指腸を一括して切除する手術です。胆道再建とともに、膵管と消化管との再建も必要となります。胃の大部分が温存される亜全胃温存膵頭十二指腸切除術、胃を半分程度切除する膵頭十二指腸切除術などがあります。
図5
進行した胆道がんに対する手術
進行胆道がんに対する血管合併切除を伴う拡大手術
胆道がんは今日でも難治がんのひとつで、外科切除が治癒を望める唯一の治療法であるにも関わらず、未だ治療成績は不良です。当科では、他院で切除不能とされるような進行胆道がんに対しても、積極的に拡大切除を行う事で治療成績向上を目指しています。動脈や門脈といった、胆管に近くがん浸潤を受けやすい血管をがんとともに切除し、つなぎなおす(再建といいます)手技を駆使して手術を行いますが、これには高度な技術が必要です。このような難易度の高い手技や大きな手術に対して経験が豊富であるのも当科の強みです。
進行胆道がんに対する周術期化学療法
周術期化学療法の積極的導入は、切除率や切除後の予後改善に大いに有用と考えらえます。当科では化学療法グループと連携しつつ、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)やKHBO(関西肝胆道オンコロジーグループ)で行っている術前、術後の化学療法の臨床試験に積極的に参加しており、難治がんに対する集学的治療を駆使し治療成績向上に努めています。
他院で切除不能と診断された場合でも切除可能となる症例もありますので、希望される患者様は外来紹介もしくはセカンドオピニオンを利用して当科受診をお願いします。
胆道がん手術後の経過
胃切除後の術後経過は、術式によっても異なります。一般的には大きな手術が多いため、術後5-7日目から食事の開始となります。腹水を体外に誘導するドレーンというチューブを抜くのは経過にもよりますが、術後2~3週間以上かかることも多いです。術後約3~4週間で退院可能となりますが、合併症の発症により延長する可能性があります。
当科における胆道がん手術の手術件数と成績
手術症例数年次推移(胆)
当科における胆道がん術後生存率
診療内容 – 膵臓
膵
膵臓がんは消化器がんのなかで最も予後不良のがんです。早期の診断が非常に難しいがんで、診断がついた段階で手術できる患者さんはわずかに約20%に過ぎません。また切除できても術後の再発率が高く、術後の5年生存率は20-40%と不良です。膵臓がんは高齢者に多いため、日本では高齢化とともに増加しています。
膵臓は3等分して頭部、体部、尾部に分けられます。膵臓自体は胃の裏側に位置する後腹膜に覆われた臓器です。頭部は十二指腸に囲まれ尾部は脾臓という臓器がくっついています。このように膵臓はからだの深部に位置し、周囲に重要な臓器や組織が取り囲んでいるため手術は往々にして大手術となります。『根治性』と『機能温存』の絶妙なバランスを保つためには、専門知識に習熟した医師が手術を行うことをお勧めします。また近年では、この悪性度の高い膵がんに対して術前に化学療法を行うことが標準的になっています。様々な治療法を駆使して治療成績を良くする工夫をしています。
膵臓がんの治療は主に手術、化学療法に大別されますが、本ページでは当科における胆道がんの手術療法の概要と成績ついてご紹介いたします。化学療法については化学療法チームと連携しておこなっており、詳細は化学療法チームのページをご参照ください。
膵がんの手術
膵がん手術の基本的流れ
膵がんは悪性度の高いがんです。まず、確実なステージングのため、CTやPET画像などでもわからない細かな病変を観察するため、全身麻酔をかけて審査腹腔鏡という検査のための手術を行います。おなかの中に切除不能な病気がないことが確認出来たら、手術を前提とした一定期間の抗がん剤治療を開始します。
抗がん剤治療が終了したら、引き続きがんを完全に切除するための根治手術を行います。根治手術の術式は、がんの場所によって異なります。
膵頭部のがんに対する手術
膵頭十二指腸切除術(亜全胃温存膵頭十二指腸切除術)(図1)
膵頭部のがんに対しては膵臓頭部を囲んでいる十二指腸以外に胃や総胆管,胆嚢,リンパ節を一緒に切除する膵頭十二指腸切除術が一般的な方法です。胃の出口にあたる幽門輪と十二指腸の一部を残して,術後のQOLの低下を防ぐ方法も実施しています。
切除後は膵臓、胆管、胃を小腸と縫い合わせ、食物、膵液、胆汁が流れるように再建する必要があり,高度な技術が必要です。この手術は膵臓と小腸の縫合部から膵液が漏れてしまう膵液瘻という特有の合併症の危険を伴います。
図1
膵体尾部のがんに対する手術
膵体尾部切除術(図2)
がんが膵体部や尾部にあるときは、膵頭部を残して膵体尾部と脾臓をリンパ節と共に切除します。以前より悪性度の高くない膵腫瘍に対する腹腔鏡手術を行っていますが、最近は膵がんに対しても積極的に腹腔鏡手術を行っています。開腹手術よりも侵襲が少なく、早期の回復が期待できます。
図2
進行した膵がんに対する手術
進行膵がんに対する血管合併切除を伴う拡大手術
膵がんは今日でも非常に治療の難しいがんで、未だ治療成績は不良です。当科では、他院で切除不能とされるような進行膵がんに対しても十分な化学療法の後に手術を行っています。動脈や門脈といった、膵像に近くがん浸潤を受けやすい血管をがんとともに切除し、つなぎなおす(再建といいます)手技を駆使して手術を行いますが、これには高度な技術が必要です。このような難易度の高い手技や大きな手術に対して経験が豊富であるのも当科の強みです。
膵がん手術後の経過
膵切除後の術後経過は、術式によっても異なります。膵頭十二指腸切除術では、一般的に術後5-7日目から食事の開始となります。腹水を体外に誘導するドレーンというチューブを抜くのは経過にもよりますが、術後1~2週間以上かかることもあります。術後約2~3週間で退院可能となりますが、合併症の発症により延長する可能性があります。
当科における膵がん手術の手術件数と成績
手術症例数年次推移(膵)
当科における膵がん術後生存率